なないろのゆり - SS:君を待つ

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SS:君を待つ

幼なじみというと、誰も気心の知れた親しい友達というふうに連想するものだと思うけれども、優菜と茉里花の二人の場合は全くその逆と言ってもいいくらいだった。

二人は生まれた時から同じ地区内に住んでいて、母親の年齢と父親の出身地が同じということもあり、家族ぐるみでは二人の誕生前から相当長い付き合いになる。
誕生日も近く、体型も近く、共通点を探せばちょっとしたリストになるくらいだ。

二人は同じ幼稚園から小学校、中学校と進み、せめて高校からはと裏を読みあって違う学校へ進むように画策しあったのだが、蓋を開けてみると結局同じ学校が志望校になっていた。
親たちはのんきに「気が合うのね~」と会話のタネにしていたが、本人たちはお互いに「冗談じゃない!」と言い合った。

そんな約18年間におよぶ学校生活は、お互いをライバル視することでほとんどの時間が過ぎた。
体力競技に学力、絵画や作文のコンクールにいたるまで、片方が片方を出し抜こうとすれば、また次の回には抜き返す。ことあるごとそんな感じであったから、周囲はほとんど年中行事と思ってむしろその競争を助長するように面白がって眺めたりもしていた。

そんな二人にやっと訪れた転機が、大学への進学だった。
さすがに選べる学校の数からして違うし、よしんば同じ学校ということになったとしても、一緒に過ごさなくてはいけない時間は高校とは比べ物にならないくらいに少なくて済む。
相変わらず実家からの通学ではあったが、二人はようやく一人ずつになる時間を手にいれた。

   *****

最近あまり元気がないのね、と夕食の時優菜は母親に話しかけられた。
自分でも気がつかないうちに食べながらため息を漏らしてしまっていたらしい。

「そんなことないよ。学校にも慣れてきたし、友達もできたし。授業も毎日楽しいよ」
「そう?でも何だか高校生のときまでと違って口数が少なくなったんじゃないかと思って」

そうだっけ?と優菜が尋ね返すと、母親はそうよ、と言って意味ありげに笑った。

「高校のときまでは、口を開けば茉里花ちゃんが今日学校で何をしたとか、これからどうするつもりだとか、ひっきりなしに話していたじゃない」
「!」

思わず勢い良く食卓を立ち上がってしまった。
優菜は「そんなに話してなんてないよ!」と否定したが、母親はゆっくり「してたよ」とだけ答えた。
それでも引き下がらず自分の方が正しいと証明しようと優菜が口を開きかけたところで、ちょうど玄関から高校生である妹が帰ってきた声がした。

「ただいま~。あれ?お姉ちゃんいたんだ」
「いたって何よ。何かおかしい?」
「おかしいっていうかさ。さっき駅前で茉里花さんが誰か待ってるような感じだったの見たから、てっきりお姉ちゃんと出かけるのかと思って」

話が続いて出てきた茉里花という名前に、優菜は顔を赤くした。

「どうして茉里花と私が一緒に出かけるのよ!」
「違うの?だって高校のときまではいっつも一緒だったのにさ。もう友達付き合いやめちゃったの?」

これまで長い間、どう考えても仲良くなんてしてきたつもりはなかったはずなのに、どうして周りは正反対な見方をしているんだろう。
優菜は「ごちそうさま!」と乱暴に箸をおくと、上着を取って玄関に向かった。

「優菜。出かけるの?」
「ちょっとだけね。お風呂とか先に入ってていいから」

扉が閉じてから、残った母親と妹は顔を見合わせて笑った。

「変わらないわね~。茉里花ちゃんが玄関から出て行くのが見えると、必ず優菜も出て行ったものね」
「まさか本人に全く自覚がなかったなんてこと、ないよね?」

   *****

自然に足の向く駅前で、優菜は見覚えのある後ろ姿を見つけた。
妹が帰ってきてから数十分が経過しているのは確かだし、よほど長くそこにいたらしく待っている仕草に退屈そうなそぶりが見える。
近づこうかどうしようかと優菜が迷ってうろうろしていると、不意に視線の向きを変えた茉里花とまともに目があってしまった。

「優菜じゃない。久しぶり」
「茉里花こそ…。ていうか、なんでこんなとこにいるの?」

問われて大きなため息をつくと、茉里花は空を仰ぐように見上げた。

「人を待ってたの」
「それはそうだろうけど」
「優菜は?どうしてここに?」

何と答えるか迷いつつ、優菜は「私も待ち合わせ」ととっさに嘘をついた。どうせあちらはもうだいぶ長く待っているのだろうし、誰が来るか見届けてからこっそり自宅に帰ったって別にいいだろうと思ったからだ。
返事を聞いた茉里花は気のせいか少し悲しそうにうつむいて「そう」と小声でつぶやいた。

駅の出口にはタクシーやバスの乗り入れ用に円周状のターミナルがあり、正面玄関で銅像一つをはさんで同じ向きに立つ二人の前を何台もの車が人を乗り降りさせては通り過ぎていった。
一時間も経とうかとした頃、足元の小石をつま先でもてあそびながら優菜は茉里花に声をかけた。

「待ってる人って、彼氏?」
「だったら、何?」
「ううん。普通こんだけ待ったら帰るっしょ。その人によっぽど会いたいのかなと思って」
「それは…。でも、優菜も人のこと言えなくない?」

反対に言い返されて、優菜はつまらないことを言ったな、と思った。
同時に、言われてみればなんで自分はこんなところで長々と何をするでもなく待っているんだろうかと考えた。
車の騒音が途切れたとき、茉里花が独り言のように言い出した。

「なんとなく。待ってみようかって思って」
「その相手のこと?」
「うん。待ってても来てくれるとは限らなかったんだけど、なんとなく。もしかしたら来てくれるかもって思って」
「ちょっと。あんたってそんな乙女なキャラだったっけ?」

からかうようにつついたが、内心では優菜は動揺していた。
これまで知っていた茉里花はもっと頭にくるくらに元気で、物事をはっきり口にして、なによりこんなに艶っぽい色気は持っていなかった。
話に出る「その人」とやらがどれほどの人か、ますます気になりだした。

「優菜は、誰待ってんの?」
「いや、別に。ヒマだったから」

突然和やかに質問をされて、別の考え事をしていた優菜はつい正直に返答をしてしまった。
あっ、と思って慌てて振り返ったが、茉里花は意外とも思ってなかったようで楽しげに口元を押さえながら「やっぱりね」と小刻みに体を震わせるほどに笑っていた。

「ねえ。そろそろ帰らない」
「だって来るの待ってんじゃないの?」
「もういいの」

先に茉里花が駅前から家の方向に歩き出して、優菜も「待って!」と数歩後を追った。
家に戻ろうとする手前をつかまえると、自然手をつないだような格好になる。
少し冷えた茉里花の手を引き寄せて、優菜は言葉を選んだ。

「帰るだけなんでしょ。茉里花も」
「そうだけど…」
「出たついでだし、一緒にどこか行かない?」

一瞬だけ驚いた顔をして、それからすぐに茉里花は笑顔になった。
逆に素早く駅の方向へと歩き出して行く。

「で?どこに行くつもり?」
「わかんない。決めてない」
「ま、どこでもいっか」

つないだままの手を握り返されて、優菜は戸惑いながらも自分の口元が嬉しさで歪むのを感じる。
ホームまで小走りに進むと、列車はちょうど出発をしようとするところだった。

【Fin.】

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