なないろのゆり - SS:眩しさの残像

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SS:眩しさの残像

近すぎるせいで気がつけないこともあるんだと思う。
優しさとかありがたさとか、自分の中にあるやましさとか。

*****

休日のお昼前、遅起きの理子が自分の部屋からのろく出てきてみると、広いリビングルームの窓際で芽衣が缶ビール片手に外の景色を眺めていた。とてもよく晴れた、温かい日差しが惜しげもなく差し込む気持ちの良い日のことだった。

「おはよ。友里香は?」
「おはよ。さっき友達に会うっていって出かけた。飲む?」

さすがにこんな気持ちの良い午前の起きぬけからアルコールを飲む気にはなれず、理子はさらりと流して冷蔵庫から果物のジュースを取り出した。
冷たさと酸っぱさに顔をしかめつつ、床座りしている芽衣のすぐそばの窓際へと進む。

「ひどい格好。鏡見た?」
「人のこと言えるの?似たようなもんじゃない」

外出時にはかっちりと決める芽衣だったが、家の中ではおなじみのだらけた格好で温かい今日など薄手のランニング一枚にパジャマのズボンといういでたちである。適当な感じに前髪をピンでとめていて、軽くパーマのかかった長い髪も無造作に互い違いになるに任せっぱなしにされている。
言われた通り鏡を見ていない理子もあちらからは同じように見られていることだろう。

だけども今更それを恥ずかしがるような間柄でもない。

理子、芽衣、友里香の三人は大学一年のときに同じ学生寮に入ったことで出会った。三人それぞれ大学も学科も違ってはいたが、他に知り合いのない地方出身者ということもあってか妙に気が合いお互いの部屋を毎日のように行き来しては朝まで話をしていたりした。
その学生寮は費用こそ安かったが規律が厳しく、設備などいろいろな面でも不満のあった三人は話し合った結果2年生に進学するのに合わせて別に借りた広い部屋で3人暮らしを始めることにした。
それから大学を卒業し、それぞれ就職をして社会人になって数年になるがいまだに共同生活は続いている。

いつまでも永遠に続くような関係ではない。
わかっているつもりだったが、3人の誰もこの生活を終わらせることを今まで口には出さなかった。

一つまた一つと年齢をとってきて、これから自分たちはどうなっていくんだろう?
穏やかな陽気に包まれていつつも、そんなことを考えていると理子の心の隅に微かに不安な影がよぎった。

このことを芽衣はどう考えているんだろうかと思い、理子はグラスごしにちらりと横顔を窺った。
3人の中でも一番交友関係が派手で顔立ちも一番整っている芽衣はすっぴんの今でさえ十分にきれいで、物思いに沈んでいるふうな表情を見ると、ほぼ毎日顔を合わせているはずの理子でさえ妙にドキドキしてしまう。

理子が手持ちのジュースを残り少なくし、どうしようかと悩んでいるところ、不意に黙りこくっていた芽衣が視線を外に向けたまま話しかけてきた。

「理子ってさ、友里香のこと好きでしょ」
「!」

取り落としそうになったグラスをなんとかとどまらせる理子を見て、芽衣がにっこりと微笑んだ。

「心配しなくてもいいよ。あの子も理子のこと好きだから」

どういう意味?と聞き返したかったが、口に出そうとすると喉の奥に言葉が引っかかったようになってうま出てこなかった。言ってしまったらきっと、この会話に深入りすることになるのがわかって怖かったのだと思う。

自覚が全くないわけではなかった。
だけども認めてしまったらいろいろなものが壊れてしまうことも知っていて、見ない振りをしてきた。

「友里香さぁ、この前職場の先輩から付き合って欲しいって言われたんだって。断ったみたいだけど。で、今度はこの前の同窓会で会った後輩から告白されたって。今日はその断り方を相談しに友達のところに出かけたってわけ。どうする?最近すっごくもててるよ、友里香」
「別に…。友里香はかわいいもん。不思議でもなんでもないよ」
「問題はそこじゃなくてさ。どうして私だけがこの話を知ってるのかってこと」

言われてみれば、最近理子は友里香から恋愛関係の話を全く聞いていなかった。仲間はずれにされていたことはショックといえばそうだが、内心聞かされていなかったことに安心もしていた。聞きたくなかった、と言った方が正しいかもしれない。

「真面目だよねー、あの子さ。カムフラでもなんでも付き合ってみればいいのに。ねぇ」

同意を求めるように送られた視線に、理子は胸を鋭く突き刺さされた。自分が最近別れたばかりの彼氏への気持ちを、まるでそっくり見透かされてしまったように思えた。

「待ってるんじゃないかなぁ~」
「待つって?何のこと」
「試してみなよ。多分理子のこと拒まないはずだから」

かっと顔が赤くなって理子は手持ちのグラスをあおった。既にグラスは空になっていたことを忘れていて、空回りした仕草のせいで余計に喉が渇いた。

「…そんなこと、急に言われても」
「何か不安でもあるの?」
「わかんないよ。だって、何をどうしたらいいのか」

膝を抱えてうつむく理子の耳に、フローリングに空のアルミ缶が置かれる軽い音が聞こえた。顔を上げるとすぐそばに芽衣の顔があった。

「意外と、どうってことないことだよ。多分ね」
「そうなの?」
「うん」

ゆっくりと、指先が理子の顎に触れた。少しためらいはあったが、そっと顔を上向かせる仕草に逆らう気は起きなくて、目を閉じると数秒後に柔らかく唇が重ねられたのがわかった。
離れる瞬間に小さく漏れた吐息が色っぽいなと理子は思った。

「もう少し、いい?」
「うん」

二度、三度と音小さな音を立てながらキスをした。目を閉じたままでいると、表の眩しい光の残像が瞼の裏で二重三重の輪を描いていた。
固い床から立ち上がった芽衣に手を引かれ、まだカーテンの開いていない自分の部屋へと戻ると着ているものを脱いで二人でシーツの中にもぐりこんだ。
胸元から腰へとキスの位置をずらしていく芽衣の、自分の身体に触れた手にそっと手のひらを重ねてみると、自分の身体の熱さを感じられるようにも思えた。

絡ませた指先を引き寄せるようにすると、身体へのキスを中断して芽衣が顔を理子の近くに持ってきた。
理子は微笑んだ表情をした芽衣の瞳を覗き込んで、言葉を選びながら質問をした。

「もしかして、友里香とも?」
「してないよ。あの子は好きな人としかしない」

ちゅ、と少し長いキスをされる。

「私が好きなのは、理子」
「え?」
「いいから」

膝を持ち上げられた窮屈な姿勢で、芽衣の指が敏感な部分に触れた。
芽衣の舌先が大腿の内側をなぞって下りて、理子は声を喉の奥でかみ殺して布をつかんだ手に力を込めた。

【Fin.】

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