なないろのゆり - SS:余計なお世話

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SS:余計なお世話

昼休みに、仲の良い友達の一人である有美が「昨日、敦也先輩から次の日曜に二人でどこか行かないかって誘われたんだけど」と言い出した。
一緒に食事をしていた結希を含む数人が、一気に有美に詰め寄った。
「敦也先輩って、前に佐奈にもデートしようって言ってたよね?」
「私の先輩で敦也先輩と同じクラスの人も、何回も誘われたって言ってた」
「最低~。まりあ先輩可哀想~」

まりあ先輩と敦也先輩は、校内でも有名なカップルだ。二人とも容姿も成績もよく委員長などリーダー的な役割を決めるときには必ずといってよいほど名前の出るタイプで、あらゆる意味で目立つ存在だった。
二人はかなり小さい時からの幼馴染ということだったが、清楚なイメージのまりあ先輩はほとんどの男子生徒にとっては高嶺の花という感じの存在なのに対し、敦也先輩の方はちょっと気に入った女子生徒にやたらと親しげな態度をとってくるような人だった。時々誘い方が冗談とは思えないようなこともあり、知っている女子生徒からの評判ははっきり言ってよくなかった。

噂では3又も4又もしていたらしい時期もあり、その後おさまったようにも見えたが、実はまだそうして彼女以外の人にちょっかい出そうとしていたのかと思うと、聞いた女子としてはあまり気分のよいものではない。
結希はまりあ先輩とは同じ委員会で、とてもよくしてくれてもらっているのもあり、その話に対する不快感はおそらく他の人以上のものだった。

「誰かさ、まりあ先輩に教えてあげた方がいいんじゃないかな」
「でも…告げ口みたいだし。それにまりあ先輩が聞いたら傷つくかも」
「だってさぁ、自分の彼氏に同じことされてたら、許せる?」

膨らんだ話は浮気談義に及び、勝手に周囲は盛り上がっていたが結希の気分は重いままだった。
生徒会の資料作りを頼まれていた結希は、今日の放課後まりあ先輩と二人で作業することになっている。
どのくらい知っているのか聞いてみようかな、と結希は思った。

*****

聞いた瞬間のまりあの反応は、結希の予想とは全く違ったものだった。
とても平然として、まるで地球の反対側の国の交通事故のニュースを聞いたくらいの態度で、「あら、そうだったの?」と言ったきりさっさと仕事に戻ってしまう。
拍子抜けして反対に結希の方の作業の手が止まるほどだ。

「まりあ先輩、もしかしてもう知ってたんですか」
「いいえ。その子のことは初耳」
「平気なんですか?」
「平気かって言われるとね。まあ、でも大丈夫かな」

こともなげに少しも感情を乱す気配のないまりあを見ていたら、なぜだか少し結希はムッとした気分になった。

「それって、敦也先輩のことが好きだから、別に浮気されてもかまわないとか。そういうんですか?」
「うーん、違うかな。敦也君はそういう人じゃないと思ってるから」
「何ですか?それ。意味わかんないですよ」

少し意地になって、結希はまとめた書類を乱暴に机に置くと、まりあの間近に近づいた。
不機嫌な表情をした結希に、まりあはきょとんとした丸い目を向ける。

「どうして?なんでそこで結希さんが怒るの?」
「何でって、わからないですけど。でもなんか嫌なんです。まりあ先輩がバカにされてるみたいで」
「バカになんてしてないわよ。敦也君だって」
「してますよ!じゃなんで平気で浮気するんですか」

やれやれ、と強情な子供に手を焼くようにため息をついてまりあも席を立った。色素の薄い茶色の瞳で正面から見据えられると、結希は何も言い返せなくなってしまう。

「敦也君と私は、もともとそういうんじゃないし」
「そういう?だって、付き合ってるんでしょ」
「一応ね。仮契約みたいなものかな。保険?」

飄々と、まりあは上品に口元に指を添えながら笑った。正直結希には、何がおもしろいのかさっぱりわからない。
憮然とした結城の胸元に、ちょんとつつくように指が当てられた。

「あのね。敦也君はね、最初から私のことなんて好きじゃないの」
「えっ? それってどういう…」
「私ってこともないか。敦也君はね、別に好きな人がいるからそんな態度をとってるの」

純朴な恋愛観を持った結希はますます混乱して首をかしげた。まりあは机の上に腰を乗せると、指先で結希の制服のリボンをくるくるともてあそぶ。

「意味ないじゃないですか。まりあ先輩、何でそんなことしてるんですか?」
「だって、そうしておくといろいろ便利なことがあるから。お互いに」
「便利?『何』をするのに?」

そこまで口にして、結希は図らずも自分が核心に近づいてしまったことを直感した。それを裏付けるようにまりあは腰を上げると、結希の真正面から胸元にあてていた指をぐっと、銃でもつきつけるように下から顎を突き上げた。

「本当はあんまり年下って好みじゃないんだけど」
「え?」
「ううん。こっちのこと。ところで結希ちゃんて、彼氏いるの?」
「何言ってるんですか!い、いません」
「じゃ、もしかして初めてだったりして」

何が、と聞き返す間もなく結希はまりあに首元をつかまれると、やや強引にキスをされた。
多分本気で押し返そうと思えば同じ女性のこと、拒むことは十分にできたような気もした。
だけども本心を言えば、迫られるとさとった瞬間から拒絶することは全く頭には上らなかった。

それを恋心というかどうかは別にして。
まりあは先輩たちどころか学内で一、二番を争う美人で、友達であるだけでも自慢になるような人だった。今日のような資料作成の雑用だって、他の人とであれば面倒くさくて憂鬱なものだったはずなのに、まりあと二人でするというだけでなんだかとても楽しいことのような気が結希にはしていた。
心のどこかでは、こんなことが起こってもいいような、むしろ起きたらいいなと望む気持ちがあったんじゃないかとさえ思える。

慣れた感じで数度ついばむように感触を確かめてからもったいつけるように唇を放し、不適な笑顔でまりあは結希の襟首まで腕を回して向き合った。

「かわいい。赤くなってる」
「まりあ先輩が、だって突然…」
「あぁ、もう。はまっちゃうからそんな顔しないの」

もう一度、今度は強く抱きしめられながら長いキスをした。おずおずと差し出す結希の舌を余裕たっぷりにまりあになぞりあげられ、ごく、と喉の奥の鳴る音にまた顔が紅潮した。

「ま、こんな感じ。詳しく説明しないけど、わかるよね?」

さっと身を引いたまりあが、「仕事終わらせちゃお」と何事もなかったかのように席に戻った。数秒呆然としたあと、我に返って結希も同じく向かいの席に腰掛ける。

「最近ちょっと度が過ぎてるけど、敦也君は頭の良い人よ。将来のこととか、いろいろ考えてお互いこういう形にしたってわけ。そういう意味では彼のことは好き」

よくある彼氏に対しての意味で言った言葉ではないのわかっていても、それを聞いてまた結希はズキと胸が痛んだ気がした。
見透かしたかのように、まりあは微笑んで結希に手を重ねる。

「ねえ、結希ちゃん。もし秘密を守れるなら、もうちょっとあなたには話してもいいかなって思うんだけど」
「言いません!絶対!」
「良かった、嬉しい。じゃ、今度ね…」

にっこりと、いつものように上品な微笑をまりあは作った。
だけど結希には気のせいか、そのいつもと同じに見える笑顔の裏に、ぞっとする何かが感じられる。
でもその不安にも似たドキドキ感は決して不愉快なものではなくて。

これから自分の身に起きてくるのだろう体験に対しての、怖さとか期待とかとてもたくさんの気持ちが複雑に混ざり合う、表現のしがたい高揚感だった。

【Fin】

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