なないろのゆり - SS:まるで猫

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SS:まるで猫

まるで猫みたい、というのが理奈の沙姫に対する第一印象だった。
再婚をする父親が新しい母親と一緒に妹となる沙姫を紹介するために、初めて自宅に来て食事をした日のことだった。
複雑な立場になるはずなのに、そんなことも気にしない様子で沙姫はとても楽しそうに料理の皿を次々に空にしていった。
お世辞にもマナーがよい食べ方ではなかったのだが不思議と品悪くは思わせず、反対にその食べっぷりのおかげで食事会の雰囲気はとても明るいものにされていた。
二人が帰ったあと、父親にどう思うかと聞かれてふと理奈の口からこぼれ落ちたのがその言葉だった。
数日としないうちに継母と義理の妹は理奈たちと一緒に暮らすことになった。
隣の部屋にあてられた沙姫ににっこりと微笑まれたとき、理奈はまた同じことを思った。
やっぱりこの子は猫に似てる。

     *

二人はお互い受験を控えた高校三年生ではあったが、通っている高校も違っていたし進学校で勉強一辺倒の理奈に対して部活とバイトでのんびり学校生活を送る沙姫では生活のリズムからして全く違っており、おまけに共通する趣味もないものだから、同じ家に暮らしていながらしばらくはあまり接点のないまま過ごしていた。
突然できた同い年の妹(生まれ月が2ヶ月ほど理奈の方が早かった)に対して、どう接してよいのか正直よくわからなかったこともある。

そんなある日のこと、理奈は数週間前に受けた模試でこれまでで一番低い結果を受け取ってしまった。
模試の日の体調が優れなかったこともあるが、それにしても本番まで一年を切っている時期に受け取るにしてはあまりにも内容が悪すぎた。
父親にこの結果を見せようかどうか家で悩んでいたとき、偶然通りかかった沙姫にシートを見られてしまった。

「まあ、こんなときもあるよ。平気平気。次がんばればいーじゃん」

悪気はないにしろへらへらとそんなことを言われ、気持ちがいらだっていたこともありつい理奈はきつい一言を返してしまった。

「がんばる気のない人は気楽でいいよね」

言ってからしまったと思い、理奈は慌ててシートを奪い返すと自室にこもった。夕方になって両親が帰ってきて、ご飯などと呼ばれたが気分が悪いと断ってずっと布団にもぐっていた。
自分が悪いんじゃない。いや、やっぱり自分が悪いと繰り返しながら横になっているうちに眠くなってきて、気分は晴れないままだったがそのまま寝てしまった。
眠る直前に階下あたりから、両親と沙姫の話す声が聞こえた気がしたが、何を話しているかは知りたくなかった。

     *

真夜中ごろになってふと目を覚ますと、妙に温かなものが近くに触れたのがわかった。
暗闇に目が慣れ、ぼんやりとした頭がゆっくり覚醒してくると、その間近にあるものは人の顔だということに気がつく。
がばっと反射的に身体を起こして見ると、そこには同い年の妹が横になってぐっすりと眠っていた。

それが沙姫とわかってからも、驚きにしばらく何と言おうもなく口をパクパクとさせていた理奈だったが、相手が全く動じることなく気持ちよさそうに寝息を立てている様子を見ているうち、呆れ半分どうでもよいことのようにも思えてきた。
理奈は一つため息をつくと、今度はゆっくり相手を気遣うように静かにさっきまで自分が寝ていた場所へと身体を滑り込ませていった。

「『一体いつの間に入り込んで来たんだろう…』」

眠っていたとはいえ、普段なら部屋の扉を開け閉めされる音くらい気がついてもいいはずだった。それに、つい最近まで片親に一人っ子として育てられてきたこともあり、こんなふうに隣に誰かのぬくもりがあることには慣れてなんていない。少なくとも自分がくるまっていた布団をめくり上げ、もぐりこむという仕草があったはずなのに、こんなにぐっすりと眠り込まれるまで全く気がつかなかったのは不思議だった。

暗がりの中に薄ぼんやりと浮かぶ無邪気な妹の顔を間近に見ているうち、理奈はそっと相手の耳のあたりにかかる髪の毛に指を沿わせてみたくなった。
ストレートの自分の髪とは違って柔らかいクセ毛の沙姫の髪はふんわりとしていて、そっと撫でてみると柔らかい温かみが伝わってくるのがとても心地良かった。

「『この子、本当に猫みたい』」

久しぶりに第一印象で感じたことを思い出して、理奈は沙姫の頬にかかった毛先を指先で分けた。微かに手のひらに感じた寝息は呼吸のリズムが早く、湿った感触が妙に艶かしかった。
額もつくほどの近くでじっとその顔を見つめているうち、さっきまで苛立っていたことや後悔でもやもやしていたことが、何だかどうでもよいことのようにも思えてきた。
ただ、言ってしまったことについてはまだ悪かったと思う気持ちもあって、理奈は小声で「ごめんね」とつぶやいた。つぶやいてから、少し顔を上向いて沙姫の額のあたりに乾いた唇をつけた。

数秒ほどの間、理奈はそうしてからゆっくりと唇を離した。
つい相手が無反応なことをいいことに衝動的にしてしまった行動だったが、顔を離した瞬間急にかあっと自分の顔が赤くなったのがわかった。同時に心臓の音が早打ちをはじめる。
相変わらず寝息を立てている沙姫に何かとても悪いことをしてしまったようにも思え始めてきて、理奈はじわじわ身体を後ろに退かせると、布団から抜け出るように身体をゆっくり起こそうとした。

あいにく理奈の寝ていたところは壁側で、配置的にベッドから完全に抜け出るには沙姫の身体をどうにかして越えていかなければいけない。壁に背中をつけながら少し考えて、理奈は両手を沙姫の頭の向こうについて、四つんばいのような体勢になった。足でまたぐよりはいいと思っての判断だったが、越えようとする瞬間に突然、それまで横向きに寝ていた沙姫がごろりと寝返りを打って自分のいる上を向いてきた。

ぎょっとして思わず理奈は身体を縦に起こしかけた。
ところがそうする前に、背中に下から腕を回されたの感じて動きが止まる。
ビクっ、と腰を折った途中の上半身を反応させたとき、真下にいる沙姫がいくつかまばたきをしながら暗がりの中で目を開いたところが見えた。

「あ、あの。これは…」

上体を支えるため、理奈の両腕は沙姫の顔をはさむように置かれている。下側の沙姫の腕は理奈の肩を後ろから巻きつけるようにされていて、暗い中ほとんど抱き合うかのような体勢だった。
言い訳をどうやってよいかもわからず、赤面した顔で混乱したまま理奈が見下ろすと、沙姫はまだ寝ぼけているのかどうなのか、ぼんやりとしたまなざしでまっすぐこちらを見つめてきた。

「んー…。理奈ちゃん、元気になった?」
「元気って。私は別に何も」
「よかったぁ」

理奈の台詞が終わる前に、沙姫が肩に回した腕に力をこめて強く抱きしめた。不自然な体勢だったがもろに頬を重ねられたのが伝わって、恥ずかしさと感じ慣れない感触に理奈は「きゃ」と小さな悲鳴のような声を漏らしてしまった。

「理奈ちゃん、かーわいい」
「ちょっと、何するの。ここは私の…」
「ねぇねぇ、こっち向いて」

肩にまわされていた腕は理奈の顔を包むようにして、ものすごくゆっくりとした仕草で沙姫に引き寄せられた。目を閉じるのと同時に唇が重なって、体勢を維持するのに疲れて理奈が足をくずすと、横向きに抱き合う形になりながら二人は長いキスをした。

しっとりと、つるりと滑る唇が離れたとき、沙姫は理奈を見ながら微笑んでいた。

「猫みたい」
「えっ?」
「理奈ちゃんて、猫っぽいよね」

きょとんと理奈が目を丸くすると、だってさと沙姫がいたずらっぽく頬をくすぐるようにして撫でる。

「私から近づくと、絶対逃げようとするんだもん。なつかないぞーって言ってるみたい」
「そんなこと。何で? 違うよ」
「違わない。理奈ちゃんは猫」

もう一度キスをされた。
さっきよりも少し力が強くて、理奈がどうしていいかわからないまま口を開くと沙姫の舌がなぞりあげ、もてあそぶように口の中に絡み付いてきた。
指先を引きよせて、沙姫は理奈の手のひらを自分の胸元に触れさせる。促されるままにパジャマのボタンをはずして直接肌に触れてみると、柔らかくて温かい中につんと張った乳房の先が手の中に触れた。

頭を抱きかかえられるようにされ沙姫の胸元を理奈が口に含むと、相変わらず心臓の音は大きく鳴ってはいたものの、心のどこかに不思議と冷静な部分ができたようにも思えた。
じゃれあいながらお互いの身体を舐めあっていると、それまで自分とは全く違うと思っていた目の前の相手が、実はあまり大差ない同じようなものだったようにも感じてくる。
気持ちよさに理奈が長めの音の混じったため息のようなくぐもった声を立てると、沙姫が同じように喉から声を上げたのが聞こえた。

不協和音と言えなくもない声だったが、不思議に心地よい調和のようにも理奈には思えた。

【Fin.】

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