酒税と増税の歴史について
このニュース読んで驚かない人っていないんじゃないですかね。ほんとに。
いちいちリンク先たどるのが面倒という方のために簡単に概略を説明しますと、日本では特に若い世代の飲酒量が著しく低いということらしいです。
そこで【国税庁】主催で、「サケビバ!」というまことセンスの欠片もないようなタイトルのコンテストを全国規模で開催するということで、20~39歳の方を対象に酒類の需要喚起のためのアイディアを募集しているとのことです。
これ、数千人規模で「酒税を下げる」って書いたらどうするつもりですかね。
あ、ちなみに募集期間は7月からで9月9日締め切りで書類審査と専門家によるブラッシュアップ(笑)をつけて11月よりコンテスト本戦開始ということ(2022年時点)。
もう少し記事を引用すると
国税庁の最近の発表によると、成人1人あたりの年間飲酒量は、1995年度に100リットルだったが、2020年には75リットルに大きく減っている。
これに伴い酒税収入も年々縮小している。1980年には国税収入の5%を酒税が占めていたが、2020年にはわずか2%となっている。
BBC NEWS JAPAN 2022.8.19の記事より
目的は要するに税収が少なくなってきたのでもっと増やすために国民にもっと酒を飲めというプロモーションを国がやっているということです。
ところで現在酒税というのはどのくらいかかっているかご存知でしょうか?
気になったので少し調べてみたところ、財務省のHPに詳しく掲載されており、ざっくりと主要なものをまとめると↓
容量(ml) | アルコール度数(%) | 参考小売価格(円) | 酒税額(円) | 消費税額(円) | 酒税等負担率(%) | |
ビール | 633 350 | 5.0 | 330 219 | 126.6 70.0 | 30.00 19.91 | 47.5 41.1 |
発泡酒 | 350 | 5.5 | 168 | 46.99 | 15.27 | 37.1 |
第三のビール | 350 | 5.0 | 160 | 37.8 | 14.55 | 32.7 |
清酒 | 1800 | 15.0 | 2035 | 198.0 | 185.00 | 18.8 |
果実酒 (ワイン) | 720 | 11.0 | 770 | 64.8 | 70.00 | 17.5 |
ウイスキー | 700 | 43.0 | 2068 | 301.0 | 188.00 | 23.6 |
という感じです。
表を見ればわかるように、酒税の負担率が最も高いのが(普通の)ビールで、清酒やワインなどはその半分以下という税率になっています。
633ml入のビールというのはつまりは一般的な大瓶サイズですが、これなどは価格の約半分くらいが税金であるということになります。
とはいえ近年では2020年10月に大規模な酒税変更が行われたことにより、発泡酒と第三のビールはかなり大幅に値上げがあった一方、ビールと日本酒は酒税が下がっています。
なお2026年までの酒税の増税・減税スケジュールは公表されていますので、気になる方はそちらでも詳しく調べてみることをおすすめします。
あと、先程ニュースの引用で国税における酒税の割合は5%から2%に減ったということを記載しましたが、なんと明治時代では国税の中でも相当の割合を占めるものであり明治25年(1892年)の資料では酒税収入は地租に次ぐ24%にもなっていたのだそうです。
その後日清戦争で日本軍が軍事費調達のための酒税増税を行ったところ、明治34年(1901年)には地租を抜く政府最大の税収になっていたともされています。
地租(土地代)は当時の選挙権者が地主であり、かつ議員の多くが地主だったことから増税できにくかったのに対し、酒税は上げてもどうせ困るのは酒造業者だけで国民もじゃんじゃん買うので必要になったらどんどん上げるということを繰り返してきたという歴史もあるようです。
(参考HP・PDF https://www.brewers.or.jp/contents/pdf/fact2011.pdf)
要は「これまでは税収が足りなくなったらどんどん上げれば勝手に増えていった財源が急にしぼんできたので、また楽に多く稼げる税収源を作りたい」というあさましい考えが見えるんですよね。
正直私はお酒は嫌いではないですし、若者においしいお酒をもっと飲んでもらいたいとは思いますが、税収を増やすためのキャンペーンには全く協力したくないというのが正直な気持ちです。
酒がまずいという問題
と、いう前提をまず一通り述べたところで本題です。
年齢がばれますが、私が酒をたしなみ始めた頃というのはまだ発泡酒というジャンルはそれほど一般的ではなく、品質もそんなによくないものでした。
ちなみに日本初の発泡酒は1994年発売のサントリー「ホップス」なんだそうですね。なつかしいですね。白生地にお前誰だの麦わらのおじさんがラベルになってたデザインですよ。ドリカムが宣伝しててねえ。
一応買おうと思えばどこでも買えるくらいには発泡酒は売っていたものの、まずいので多少高くても普通のビールを買うという人がほとんどでした。
その後企業が改良を重ねた結果、現在は当時よりもかなりマシな品質にはなったものの飲んだあとのカスカス感というか、チープなアルコール感のようなものは拭い難いものです。
とはいえ私はたまにお酒を飲みたくなったときにはやはりお手頃な第三のビール(個人的には中途半端にまずい発泡酒買うくらいならコスパで第三のビールにするか、おいしいのを飲みたいならちゃんとビールを買うということにしてます)に手が出るもので、うまいとは思わないまでもそこまで耐え難いほどまずいとは思わずに楽しむことができています。
それはやはり、一度はちゃんとしたビールを中心に飲んできたという過去の経験があるからであり、その記憶をもとに似たような味のものを疑似体験として楽しむことができる素地があるからではないかと思います。
最近の大学生などの飲み会の注文内容はわかりませんが、宅飲みなどでわざわざ高いビールしか買わないというタイプの人というのはそんなに多くないのではないかと思うのです。
ということは、今どきのお酒初心者の方たちにとっては「お酒」というのは「発泡酒・第三のビール」というものになるので、それをうまいうまいと飲み続けるのって結構しんどいんじゃないですかね。
ただでさえ金銭的に余裕がなく、将来が不安というしっかりしたタイプの人はわざわざ飲み慣れなくてそんなにおいしいと感じない嗜好品のために高いビールを選択するということは考えにくいですし、身近にお酒を上手にたしなんでいる大人の人がいなかったらずっと「酒はまずいしいいことないもの」と思って過ごしていくことになるんじゃないかと。
言うてビールも発泡酒も大して飲み比べても変わらないでしょ、と思う方もいるかもしれませんが、私自身が一般的な学生が行くチェーン系居酒屋で提供されてた日本酒がまずくて苦手だったところ、地元で貰い物のちょっといいものを飲んだら一気に好きになってそれから同じチェーン居酒屋で提供される日本酒を飲めるようになったという経験があるので、うまい酒というのは本当にうまいのだと断言できます。
そもそもビールもワインも日本酒も、最初のまずいと思う段階を一段越えてうまさがわかるような飲み物なので、最初に本当にまずいものしか飲んでないと好きになるチャンスも何もないのではと思います。
ちゃんとしたお酒を飲ませてほしいと思う
とまあ「若者のため」というおためごかしは抜きにして、私自身としても日常的においしいお酒を飲みたいと切に思っているところであります。
自動車とかもそう思うんですが、安全性が高く走行性能もよい自動車ってめっちゃ税金が高くて、お買い物くらいにしか使わないのにそこまで払えないなあと思ったりするわけです。
その結果として安全性能も走行性も良くない軽自動車を特に若い世代の多くの人が選ぶようになるので、遠出をする楽しさとか味わうこともなく事故の危険が大きいものを日常的に使用せざるを得なくなっていきます。
いわゆる「贅沢品」を贅沢なままにしておくということは、結局その「贅沢」を知らない人や魅力を感じない人が増えることにもなりますので、文化的に大きなものを失って世代が続いていくということになるんじゃないかなあと思うわけです。
とか書くと「若いうちに本物に触れないとダメとかいう老害かよ」と思われそうですが、私は何も将来のために若者がなけなしの預貯金からうまいと思わない酒や、楽しいと思えない車を買えと言いたいわけではありません。
その「本物にふれる機会」を奪っているのは、目先の税収にこだわった大人の理屈だと言いたいのです。
まとめとして最初に紹介した記事の話題に戻りますが、若者向けのアルコール消費量を増やすためにまずい酒を沢山飲ませようとするのはやめてもらいたいということを私は言いたいのです。
「税収を増やすため」ではなく「お酒をたしなむという文化を継承するため」という方向で話を進めてもらいたいんだよなあと、冒頭のニュース読んだとき本当に思いました。