AIにむしろ怒るべきなのは「文化的横領」

AIラーニングの混乱と現状まとめ

これを書いているのは2023年の5月9日で、数日前よりpixivで数十万フォロワークラスの大手イラストレーターさん、いわゆる絵師さんたちが作品をすべて非公開にしているというニュースがSNSなどで大きく流れてきています。

同時にどこまで本当はわかりませんが、FunBoxなどの投げ銭システムのあるサービスでAIで生成された絵を使って大金を稼いだという話もちらほらと流れてきています。

確かに今年(2033年)に入って間もない頃から急激にAIを使ったサービスが一般向けに開放されており、特にChatGPTなど検索感覚でブラウザに入力をすれば即座に質問への回答が出力されるタイプの非常に優秀なものが既に実用に耐えるレベルで安価に使用できるようになっています。

AI技術について言われるようになってからしばしば「将来的に仕事を奪われる」という話もよく聞かれるようになっておりましたが、その対象になっていたのは主に弁護士や医師などのホワイトカラーが中心で、職人的なブルーカラー職は安全ではないかという予想もされていましたね。

それがこのAIショックにより、漫画・イラスト業界においては特に過剰に反応をしている人が多い印象です。自分の作成したイラストなどの作品をネット上に(特にpixivのようななんとなく信用できないプラットフォームに)置いておくと勝手にAIに絵柄をラーニングされ、自分と全く関係のない企業や個人の生成する作品に流用されるという懸念から一気に非公開にした、というのが現状のようです。

もっともいわゆるオタク界隈というかイラストや漫画を扱う人たちの間においてはこうした絵柄やストーリーなどの手法の盗用―――平たく言うところの「パクリ」については大変厳しい文化を持っているようで、ちょっと有名になった作品やクリエーターに対してトレパク疑惑を検証しては大げさに訴えるということが繰り返されてきたという下地もあります。

いわゆる特定班とされる人たちの調査能力はかなり優秀で、個人的には某刀剣ゲームにおいてUIのボタンとして使用していたオブジェクトアイコンがネット上の著作権を放棄されていない画像を反転や加工したものだということを暴いた人たちなど、その執念には感嘆というか恐怖も覚えたものです。

しかしここ最近のAIラーニングにかかればそうした足のつきやすい加工(反転・拡大・縮小など)を経ることなく絵柄や雰囲気そのままに全く別作品を生成することができるわけですから、従来までの方法を用いてきたクリエーターさんたちが戦々恐々とするのもむべなるかなという感じです。

この先に起こることを予想してみる

とはいえクリエーターがいくら自衛のために自分の作品をネットで非公開にしたとしても、現状インターネットでのツール内でどのようにラーニングが行われているかはわかりません。

一応今できる自衛対策としてウォーターマークなど作品の一部にノイズを意図的に入れる方法が推奨されていますが、それがどの程度AIラーニングを防げるかはわかりません。実際、最先端の画像編集ソフトはクリックひとつで画像内の一部を切り抜いたり変更したりすることができますし。

それに作者自身がいくら自衛をしても心無い第三者が勝手にAIに学習させる可能性はありますし(このへんのことは特定外来生物を勝手に放流することにも似ています)、作者さんが一般の目に触れる仕事として作品を公開をしたら学習を完全に防ぐことはまず不可能でしょう。

そもそも論として身も蓋もないことを言えばそうした「ラーニング」はAI云々の前からありましたし、実際ネット上では有名な漫画家のタッチを完コピレベルで習得した人たちがネタ扱いとして様々なところで使用をしています。

個人が有名な作品の絵柄やタッチ、ストーリーなど根幹部分を学習して模倣したものを作るのはよいけれどもAIは嫌だというのもなんだか虫の良いことを言っているなあというような気がしてしまいます。

AIはそうして勝手に模写をして別作品に作り上げる作業を自動化しただけのことで、最初に挙げたような弁護士や医師の仕事のような知的ルーチンが実現されたことに過ぎません。

「芸術家」という職業はAIには叶わなくても、一般の「デザイナー」や「BGMミュージシャン」のような末端の仕事はあっさりAIによって取って代わられるというのが簡単に予想できる将来なのではないかと思います。

言い換えれば「○○に似たデザインでポスター作って」というような種類の仕事はAIの操作ができる人がいればそれで終わるということです。

少し毒っぽいことを言えば、今売れっ子とされるクリエーターさんの絵柄もどこか何かに似ているというものが多い(同じ制作アプリを使っているせいで)ので、イラストだけで食っていくという人は確実に減ることになるだろうとは思います。

現状で一番問題なのは文化的横領

とはいえ将来のことはわかりません。

海外の政治家でITや著作権に精通した人がいて(日本の政治家にはリテラシー的に全く期待できないので)、革新的なルールを作ってくれる可能性もないわけではありませんし、奇跡的にローカルルールがクリエーター業界での棲み分けをしてくれるかもしれません。

そのあたりは先のことを気にしすぎてもしょうがないのではないかと思うのです。

むしろその段階に至る現状で一番問題にするべきなのは、AIで生成した作品を使ってクリエーターを名乗ることに対しての文化的横領ではないでしょうか。

この「文化的横領」という言葉は、今では故人となった登山家栗城史多氏に対して生前に先輩登山家である服部文祥氏が言ったものです。

これは栗城氏が「単独無酸素」といった登山用語を安易に用いて自分をプロモーションしていたことへの苦言の中で登場した言葉で、登山用語に明確な定義がないということを自分に都合よく解釈をし、過去に命をかけて達成をし、あるいは達成できずに散っていった登山家たちと自分を同等の存在であるかのように吹聴することに抗議をするために用いられました。

現状のAI生成による作品出力クリエーターは、技術の内容が一般に周知されていないがために世間からの評価が過去のクリエーターと同様の扱いを受けている部分があります。

「クリエーターになりたい」という気持ちにそった努力の方向が、人よりも多く絵を描いたり感性を磨いたりといったことではなく、なにかに似た絵をAIに出力させるということに向かっているというところが、どことなく栗城氏の自己プロデュースと同じ雰囲気を感じてしまうからです。

ただ今ネットでイキっているAI出力師は言うほど儲かっているわけではなく、周囲を煽るために言っているだけだという話もあります。

いずれにしても今後しばらくは「クリエーター」や「絵師」といった言葉が過去の努力によって積み上げられてきたブランドをどんどん崩していくことになるだろうということは確実でしょう。

どちらかと言えば現在のクリエーターさんたちはそうした部分の方にもっと怒った方がいいんじゃないかなあとも思っているんですが。

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